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2007年8月 4日 (土)

『横浜の町名』

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 横浜市市民局から出版されている『横浜の町名』を地名研究に参照するときは、昭和57年の初版にあたらなければならない。例えば「岸谷(きしや)」に関する項目でも、以下の通り異なるのである。

【昭和57年版(初版)】
・岸谷(きしや)(一丁目~四丁目) 〔昭和四十二年・五・一〕
昭和四十二年住居表示の施工に伴い生麦町他一部より新設された町。町名は地元の要望により字名を採用したもの。キシとは、崖、山手などの意味を持つ地形用語で、岸谷とは「山側の谷戸」、あるいは「山手の谷」という意味で、現在の生麦を古くは岸村といった時代があり、岸村(ガケのある村)に対し、岸村にある谷戸という意味であるとも考えられよう。
【平成8年版(最新版)】
・岸谷(きしや)一丁目~四丁目 〔昭和四十二年五月一日設置、住居表示〕
昭和四十二年住居表示の施工に伴い生麦町他一部より新設された町。町名は地元の要望により字名を採用したもの。地名研究で「キシヤ」とは「山側の谷戸」あるいは「山手の谷」という意味という。一・四丁目の東側を東海道本線・横須賀線・京浜東北線が通り、二・三丁目の北西側を第二京浜(国道一号)が通る。

 昭和57年版に書かれていた地名の解説が、平成8年度版では大幅に削られてしまっているのがわかる。代わりに現在の岸谷の情報が書かれているが、これは「町名」と名付けられた本に載せるべき内容ではない。
 もともと本書は、昭和42年から始まった住居表示に伴い、新設された町名の由来を明らかにするために発行された本である。初版が刊行された当時は急速に統廃合されていく町名や地名に対し市民の関心が強く、またそれだけ行政に対しても高い見識が求められたのだろう。
(写真左:昭和57年版。地名研究家、桜井澄夫氏調査執筆委託されたもの。その内容はもとより住居表示課の挨拶文、附録に至るまで読み応えがある。写真右:平成8年版。)

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コメント

ほぉ、こんな本があるんですか。知らなかったです。
初版が手に入るかなぁ。
実家の町名の由来なども知りたいなぁ。
探してみます。

投稿: くてくて | 2007年8月 4日 (土) 22時52分

最新版は市役所で買えますが、初版は残念ながら古本屋か
図書館で見るしかないようです。
実は私も先に最新版を市役所で購入したのですが、
その後たまたま古本屋で初版を見つけました。
内容の違いに驚いて即買いしてしまった次第です。

投稿: tsurucoco | 2007年8月 5日 (日) 00時48分

地名とは、結構難しい問題だと思います。

地形その他に密着した、歴史ある名前がいいのか、
「希望が丘」「みなとみらい」のように、ちょっと抽象的だけれども
その地区の人心を刷新するような名前がいいのか、
判断が分かれるでしょうね。

現代においては集合住宅に住む人の数が半端でないので、
私はマンション名・アパート名にも関心を持たずに
いられません。
暇があったら「集合住宅のネーミング研究」をしてみたいです。

投稿: stonefield | 2007年8月 5日 (日) 10時13分

地名は難しいですが、それだけに面白いですよね。
「集合住宅のネーミング」は、確かに大変興味深い題材だと思います。
自然発生的な地名とは違い、建物の名前にはほとんどが
「オーナーの意志」というのがあると思います。
多くの人に借りてもらおうと願ってつけられた「建物の名前」・・・。
建設された年代、建物の大きさ、その土地の地域性などによって、
どんな違いがあるのでしょうね。

投稿: tsurucoco | 2007年8月 6日 (月) 21時54分

とある方にお勧めされて来ました。
水彩画と解説がとても素敵ですね。

いつか鶴見区・横浜について書き尽くされたら、東京の
文京区をよろしくお願いします。
負けず劣らず歴史あり・趣ありのところですよ。

学生時代から通算で15年文京区に住んでます。
数えてみたら、今住んでいるのは文京区内で何と6箇所目に
なりました。

投稿: Jet | 2007年8月 7日 (火) 01時41分

コメントありがとうございます。
今後ともどうぞよろしくお願いします。

私は上野の美術館にはたまに行くのですが
文京区までは足を伸ばしたことが少なかったです。
早速、区のHP見に行って(にわか)勉強してきました。(笑)
大学の多いところですね!今度是非探索しに行こうと思います。

私も実は先日鶴見区内で引越ししまして、今2箇所目です。
同じ区で6箇所とはすごいですね。
文京区のいろいろな面が見られて面白そうですね。

投稿: tsurucoco | 2007年8月 7日 (火) 22時08分

tsurucocoさま。
私は「横浜の町名」の初版の著者です。第2版以降との内容の違いにつての的確なご指摘、恐れ入ります。その通りです。2版、3版の出版時に私は日本にいなかったので、地名のことがよく分からない人に市が依頼して、私に言わせればとんでもない内容になりました。菊名の人たちがやっておられる、HPの「菊名川ものがたり」にも同様の指摘があり、顔を出してきました。地名というものは特有の要素があり、研究をしたことのない人にはわかりません。あまりに俗語源や民間語源がはびこっていて厄介です。これから、たびたびHPを拝見させていただきます。どうかよろしく。

投稿: 大口開き | 2007年8月10日 (金) 21時41分

著者の方にコメントをいただけるとは感激です!
本当にありがとうございます。

私も地名の由来には大変興味がありますが、地名研究に対する基礎知識が薄いため、このブログでもいろいろお恥ずかしい内容を載せていることと思います。

『横浜の町名』については、この本の存在自体はありがたいのですが、現在のように改訂されたのは残念です。この内容で出版した行政側に問題があるような気もしますが、もしかしたら「もっと読み物として読みやすくしてほしい」というような市民からの意見があったのかも知れません。しかし内容に一貫性がないため、結果的にかえって”読みづらい”本になってしまいました・・・。

地域の文化遺産として、「地名」を残し続けることは本当に大変ですね。
今、鶴見区駅前にある地下道に「愛称」をつけるべく、名前を募集しています。私としては是非「ふれあいの歩道」や「なかよし歩道」などとせず、(ましてや人名などにせず)この地域の小字の名前をそのままつけてほしいと思っています

投稿: tsurucoco | 2007年8月10日 (金) 23時49分

tsurucocoさま。
早速のご反応、ありがとうございます。書かれたことはいちいち納得します。昭和57年に初版が出た時は、この本は行政資料として作られたので、販売しませんでした。ですからあまり読み物としての配慮をせず、写真なども入れませんでした。しかも予算の時期の関係で3ヶ月で書いた促成版なのです。それが刊行後、1週間で増刷し、販売もされ、第二版、第三版も出されたのです。そのようなことは当初から計画されていたのではありません。私としては、もっと時間をかけてしっかりした内容にしたかったのですが、その後、ほかの人がの手が入り、変な本になりました。例えば大口という地名ですが、そこで昔、袴(大口袴)をはき替えた、なんていう俗説を載せ、私が「大口谷戸」だと初版で考証したのに、消しました。なんで田畑の集落もなかったような場所で、袴をはき替えそれが地名になるのですか?某神社が、いくつもの地名をじぶんの神社に関係ある地名だという根も葉もない非科学的な説をまきちらしているのです。そいう伝説、俗説は研究でも、科学でもありません。また、区のHPなどにもそのような第2版以降の民間語源説を載せるのです。日本の地名研究や行政による取り扱いはそのようなレベルなのです。鶴見は朝鮮語で「チュルミー」だとかするのもそのひとつです。つるみもつるまきも典型的な日本語の地形地名です。鶴が飛んできたのでも、朝鮮語でもありません。全国各地にある地名です。鶴も見も当て字などです。ちゃんとした地名研究を見れば分かるのです。
有名な谷川健一という人が書いた「日本の地名」(岩波新書)にも、「くぐ」という語彙を持つ地名が「白鳥」がいたことにちなむと書いていますが、「くぐ・の・みなと」「クグ・エ」などという地名の場所に白鳥がいたというのです。
なんで港の名に、白鳥という語が形容詞的に使われるのですか?
昔の地名は、現代の遊園地の池につける名前とは違うのです。くぐは白鳥ではなく地形用語でしょう。そのような基本的なことが分からない人が「権威」と呼ばれるのです。「日本の地名」の続編は、動物地名についての本ですが、動物の名が使用されている地名の多くは、古語(多くは地形容語)に、動物名のなどの漢字を当てただけなのに、それが分からないのです。地名が古くくなると古語の意味が失われ、音を耳にした庶民が、意味が分からないので、近音の漢字に当てたのです。そうするとなじみがある動物や植物の名がよく当てられ使用されました。そしてその文字を使用した地名に新たな伝説が生まれるわけです。
じっさい日本に動物地名などほとんど存在しません。北海道のアイヌ語地名は別ですが。例えば「牛」がつく地名はいろいろあるでしょうが、「臼」の意味が多いようです。谷戸のなの場合、「臼のような形の」谷戸ということで、牛を飼っていたのではないと思います。谷戸や谷の名称の多くは、谷の形状を示しています。谷の利用方法から名付けることは少ないと思います。しかしこういう人たちには語構成や地名用語の本質がまったく分からないのです。それで私はあえてそのような語源説や民間語源を、バスガイド地名学と名付けています。一例をあげるなら谷川氏は新潟の「猿供養寺」という地名は「猿はザレ、供養はクエでいずれも崩壊地名である」と言い切っています。この辺が地すべり地帯であるのは事実ですが、「地すべり・地すべり・寺」なんていう地名があるのか?そんなのはかなり不自然だし、音韻的にも相当無理があるでしょう。それより越後には庚申信仰が盛んであり、猿供養というものがあるのです。ほとんどこの方のこういった「研究」は言葉遊びの域を脱せず、まさにバスガイド地名学です。地名語源は思いつきやカンで考証するようなものではなく、広い知識が必要です。地名理論を学ばない人の考証はだいたい危ういものだといえるでしょう。
「権威」もバスガイドさんもたいした違いがないのです。「権威」がまじめな顔で、立派な出版社から本を出すほうがある意味でもっと影響が大きい。ですから嫌われるのを覚悟で、私はこうして批判をするのです。
最近地名辞典をたくさん書いている、吉田茂樹というひともかなりいい加減な人で、「横浜」とは「東海道の横の浜」、「磯子」とは、「磯で働く若者」なんて書いている。横浜の地名が記録にでたころ、東海道が横浜を通っていたのですか?磯子の「子」は接尾語で、「若者」なんていう意味じゃないでしょう。だいたい「若者」が地名になるのか?こういう人たちが地名研究者を呼ばれるのです。ひどいものです。
ちょっと調子に乗って書きました。失礼しました。なお私は神奈川区の住人です。

投稿: 大口開き | 2007年8月11日 (土) 13時36分

「横浜の町名」のことですが、正確にはこの本には3種類ありまして、tsurucocoさんがご紹介の2冊の間に平成3年版があります。平成8年半は市役所や伊勢佐木町の有麟堂で買えますが、平成3年版は発行部数が少ないようです。古書店などでも昭和57年版は時々でます。この版は15000部印刷したので入手は困難ではありません。ご参考までに。

投稿: 大口開き | 2007年9月 9日 (日) 07時47分

情報ありがとうございます。
平成3年度版も図書館で一度見てみようと思います。

投稿: tsurucoco | 2007年9月10日 (月) 09時41分

「横浜の町名」の初版の著者です。今度、東京の出版社から「横浜市地名辞典」を書くことになりました。横浜の地名の本を書くのは25年ぶりです。情報提供と、ご教示をお願いします。
その後東京の地名辞典もやるよていです。

投稿: 大口開き | 2007年9月15日 (土) 06時41分

すばらしいですね。完成を心待ちにしております。
是非昔の小字の由来を載せていただきたいと思います。(このブログのためにも・・・)

投稿: tsurucoco | 2007年9月15日 (土) 17時51分

質問もされないのに一言。「鶴見」という地名が、鶴巻や鶴川と同じように、「水流」+「ミ」からきているのはまず間違いないでしょう。「水流」は「つる」と読みます。鶴見という地名も各地にありますが、「水流」をツルと呼ぶ例も九州などにあります。まあ「ミ」は「廻」かと思います。つまり「川沿いの土地」ということになりましょう。なお「ツル」だけで、「水路のある低地」という用例もあるようです。まさに横浜の鶴見に合致する地名だと思います。そのへんの本によく書いてある「鶴が飛んできた」からとか、朝鮮語などというのは現在の地名学の立場からまったく認められない、民間語源説です。いわゆるバスガイド地名学です。バスガイドさんには失礼ですが。すみません余計なことで。

投稿: 大口開き | 2007年12月24日 (月) 07時37分

今度、横浜地名研究会では鶴見の小字、小名の研究をすることになりました。最近は小字図を編集し、これからは各資料からの小字、小名の収集整理、地租改正以前の小地名の収集を行う予定です。なお私は、鶴見だけでなくほかの区についても調べている途中です。

投稿: 大口開き | 2007年12月24日 (月) 07時42分

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